99号(2021年12月発行)

血友病のそこが知りたい
血友病とこころ❷
血友病患者さんにおけるメンタルケアのポイント(社会人以降)

2021年12月号-血友病とこころ❷ 血友病患者さんにおけるメンタルケアのポイント(社会人以降)

荻窪病院 血液凝固科 臨床心理士 小島 賢一 先生
 



本コーナーでは血友病患者さんのメンタルケアをテーマに荻窪病院の小島先生から2回に分けてお話をお伺いしています。前回は幼少期から青年期にかけての血友病患者さんのメンタルケアについて、続く今回は社会人以降の血友病患者さんのメンタルケアについて語っていただきました。

血友病患者さんのメンタルケア
就職・家庭生活など

血友病患者さんのメンタルケア就職・家庭生活など

就職については、以前よりも病気を気にすることなく就職する方が増えており、血友病患者さんであっても非血友病の人と同じように社会人として働いています。ただ、その分、遠隔地への転勤や海外赴任などを任されることも増えているようです。適切な定期補充により、ほとんど出血がなくなったとは言え、かかりつけの専門医から離れることに不安を感じることもあるでしょう。国内については、日本血栓止血学会で全国の血友病診療機関のネットワークを構築しているところですので、主治医に相談して転任先でも事情のわかる医療機関を紹介してもらいましょう。海外については、赴任先、住所地や健康保険の変更の有無、会社が事情を知っているかどうかにより、対応が大きく違ってきますので、病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)や主治医との早めの準備が必要です。

恋愛や結婚に関しては、ご巨身がそれを希望し、病気の管理と生活の自立ができている方は、非血友病の人と同じように結婚して家庭を持っています。一方、家庭を持つ方が増え、イクメンが当たり前になったことで、子育て上の悩みも増えています。出血がない場合であっても、赤ちゃんを長時間抱っこして肘を悪化させた例や、怪人役を演じた父親が子どもに蹴られて内出血した例もあります。子育てで様々なことが起こったり、仕事がなかなか休めなかったりなどで、身体がしんどくなってくることもあるでしょう。そのようなときには、奥様と役割分担を話し合うなどして乗り切りましょう。私たち医療従事者も輸注量・タイミングやメンタルケアなどの知恵を貸します。がんばれパパ!


※イクメン:育児をする男性のこと

血友病患者さんのメンタルケア就職・家庭生活など

血友病患者さんのメンタルケア
中年期以降

血友病患者さんのメンタルケア中年期以降

中年世代になると、関節を悪くしてしまう方も増えます。個人差はありますが、背中がかけない、両手でシャンプーができない、ネクタイ・靴下の着脱が大変といった声も聞きます。血友病性関節症の痛みに悩まされる人も目立ち、人工関節に関する相談が増えるのもこの世代です。しかし、社会的な役割が大きくなっていることから、健康管理よりも仕事を優先してしまい、結果、不自由と痛みを我慢し続けることになりがちです。また、この世代で運動の習慣があまりない場合、生活習慣病の不安もあります。平均余命が大きく延びている今、食事指導、リハビリテーション、手術も含めて総合的に対応してもらうために定期受診を欠かさないようにしましょう。不自由を我慢することを当たり前と考えずに、コーディネーターナースをはじめ、様々な職種の人の助けを借りて生活の質(QOL)を維持していきましょう。


生命保険に関しては、血友病患者であっても加入できる商品が増えています。病気の人でも加入できる保険を扱っている会社は、こうした情報収集の入口となりますし、病気に詳しいファイナンシャルプランナーにも出会いやすくなりました。ただ、残念ながら家を建てる際に加入する団体信用生命保険は門戸が未だ狭く、利用のハードルが高いため、慎重な資金計画が必要です。


また、近年激増しているのが介護の悩みです。はじめは自分ではなく、親。血友病の自分を一生懸命育ててくれた親が、高齢になり介護が必要になってきた時です。ある方は「一人っ子の自分しかおらず、親をベッドから車いすに乗せることも、肘が悪くてできない」「親を施設になかなか入れてもらえない」と困り果てていました。こうした悩みでも病院にいるMSWが相談にのりますので、知恵を借りましょう。


他にもこの世代の悩みはいろいろあります。娘さんに対して保因者であることをなかなか告げられず、とても悩む患者さんもいます。伝えにくいかもしれませんが、まずご自身が血友病とその治療についてしっかり理解していただき、親として娘さんのために勇気をもって臨んでください。病院がお手伝いします。

高齢の世代では、目の衰えや白内障などの症状により静脈注射が難しくなったり、付き添いがないと 病院に通院できなくなったりすることで、定期補充が自己管理できなくなるという不安を持つ方が増えています。とくに認知症になったらどうしようと考える方は多数いらっしゃいます。輸注閻隔があけられる製剤、皮下注射で済む製剤、訪問看護の利用など、様々な対応があります。過度に心配することはありません。散歩を習慣にしたり、趣昧などに積極的に取り組んだりすることで、認知症が進みにくくなるとも言われます。同時に日々進歩する治療法の話を医療関係者から聞いて、ポジティブな姿勢を維持することも大切です。血友病の専門医に気分の落ち込みや生活の相談はお門違いなんて考えず、まずは気軽に話してみてください。

幼少期~青年期はこちら

血友病患者さんのメンタルケア中年期以降