99号(2021年12月発行)
Close Up あこがれの大人になるために。
好きなことを仕事に!ゲームが好きだから、その魅力を多くの人に伝えたい
櫻井数馬さん
ゲームライター*である櫻井さんは、血友病Aの重症型。体への負担が少ない仕事を探していたとき、幼少期から親しんでいたゲームに関わる現在の職業に巡り合いました。今では、仕事でもプライベートでもゲームをプレイする毎日とのこと。ゲームライターという仕事の裏側やゲームの魅力、仕事以外の時間の過ごし方などについてお聞きしました。
*:ゲームの紹介記事や攻略本などを執筆する職業
父が買ってくれたゲーム機がゲームとの出会い
幼稚園の年少くらいの頃、父がくれたゲーム機をきっかけにゲームに夢中になりました。父がゲーム機を買って帰ってきたときは、「すごい遊び道具がやってきたな」と胸を躍らせたことを覚えています。友達と外で遊ぶこともありましたが、どちらかというと部屋でゲームをして遊ぶ方が好きな子どもでしたね。
次世代のゲーム機が次々と登場して人気になるなか、自分はそれらを買ってもらえなかったので、中学を卒業するまではずっと同じゲーム機で遊んでいました。高校生になってからは、小遣いを貯めて中古のゲーム機を自分で購入するようになり、さまざまな機種のゲームを楽しむようになりました。
自分が血友病であることをはっきりと意識したのもその頃でした。自分で注射を打つことができれば、両親が不在のときや一人暮らしを始めてからも困らないだろうと思い、自己注射を始めました。最初は失敗して痛い思いをすることもありましたが、血管を見つけたらその両脇にペンで印を付け、狙いを定めて打つなどの工夫をすることで上達していきました。
ライターとして、文章でゲームの魅力を伝える
仕事について考え始めた頃にはすでに関節を痛めていたため、座ってできる仕事を探しました。その結果見つけたのがゲームライターという職業です。ゲームが大好きだったので、すぐに募集のあったゲーム雑誌の出版社の面接に行きました。面接で「きつい仕事ですが、大丈夫ですか?」と聞かれた際は、「やらせてください」と答えました。やる前にあれこれ考えてあきらめるよリ、"やってみなければわからない"とまずは挑戦する性格です。
面接後に採用され、ゲームライターとしての第一歩を歩みはじめました。仕事の内容は、ゲーム雑誌に新作ゲームの紹介記事を書いたり、ウェブサイトにゲームのコラム記事を書いたりすることがメインです。新作ゲームの紹介記事の執筆では、ゲーム会社から届いた製品版になる前のソフトを実際にプレイさせてもらえる場合もあります。ゲーム会社からは作品の特徴がまとめられた資料も受け取りますが、何よりも自分でプレイすることで資料に書かれている以上の作品の魅力を発見することが大切だと思っています。
記事を執筆することでお金をいただくのですから、何より読み手のことを考えなければいけません。いつも心がけているのは、"読者が小さなお子さんであっても理解できるような文章にすること" です。普段からさまざまな本を読んでわかりやすい表現を研究し、読み手にしっかりと伝わる記事になるよう言葉を選んでいます。
ゲーム攻略本の制作も担当しています。実際にプレイをして攻略法を探るので、時間がかかりますし、作業量は膨大です。ある攻略本を制作したときは、制作期間がとても短く、毎晩遅くまで作業をしました。その結果、その攻略本はインターネットの通販サイトで数多くの読者から高評価のレビューをもらいました。大変な思いをして制作した分、喜びもひとしおでした。発売前や発表直後の作品、業界で注自される作品をいち早くプレイできるのもこの仕事ならではの面白さであり、ゲームの魅力を読者に伝えられることにやりがいを感じています。
ゲームは人それぞれの楽しみ方を見つけられる
最近はVR(バーチャル・リアリティ)ゲームの記事を書くこともあります。VRゲームの場合、テレビなどに映すゲームとは異なり、ゴーグルやヘッドセットを装着することでまるで自分が本当にゲームの世界にいるような臨場感のあふれる体験をすることができます。ゲームによっては、コントローラーを武器として動かし敵と戦うこともあるので、意外と体力を使い、汗びっしょりになることもあります。
一方で、昔ながらの家庭用ゲーム機でプレイするゲームもまだまだ健在です。ゲーム内の大きな物語のなかで、一つひとつミッションをクリアしていくのは楽しく達成感がありますし、さまざまなジャンルのゲームがあるので、人それぞれ好みのゲームを選ぶことができ、自分なりの楽しみ方を見つけられるのが魅力だと思います。
忙しくてもきちんと注射を続けることが大切
フリーランスの仕事なので、曜日はあまり関係なく、毎日9時か10時に起きて仕事を始め、休憩を挟んで夕方まで働いています。仕事中は編集者から連絡が来たらすぐに対応できるようにしていますが、それ以外の時間はゲームをして過ごしています。さまざまなゲームを知っていると仕事にも役立つので、趣昧と実益を兼ねた時間ですね。
ライターになったばかりの頃は、仕事をこなすのに精一杯で余裕がなく、週に数回行っていた自己注射を2〜3週間ほど怠ったことがありました。その結果、あちこちの関節で出血が起こり、それまで経験したことのない激痛に襲われたのです。そのときのつらさを二度と経験しないよう、どんなに忙しくてもきちんと注射をしようと心に決めました。大変な思いをしましたが、自己注射に対する自分のモチベーションになっています。
現在、自己注射は週1回、仕事を終えた夜に行っています。ある曜日に好きなバラエティ 一番組が放送されるので、テレビでその番組が始まると、「ああ、今日は注射の日だな」と関連づけて、忘れないようにしています。
コロナ禍になってから、出版社に出向く機会が減り、自宅にいる時間が増えました。以前は買ってきたお弁当で食事をすませることが多かったのですが、家で過ごす時間が増えた分、自炊する機会も増えました。以前の食生活では,体重の増加が気になっていましたが、今では健康的な食生活を送っています。
好きな気持ちを原動力に挑戦を
私自身は、血友病であることを悲観的に考えたことはありません。両親も特に何かを制限することもなく、友達からも特別扱いをされたりすることはありませんでした。こうした周囲の接し方が大きく影響して、楽観的に受け止められるようになったのだと思います。
攻略本の執筆や、締め切りが近いときなど、忙しく大変なときもありますが、仕事を続けられるのは、やはりゲームが好きで、ゲームそのものを心から楽しんでいるからだと思います。若い世代の方にお伝えしたいのは、「まずは好きなことに挑戦してみよう」ということですね。血友病で、体に負担をかけられないときもあるかもしれません。しかし、つらいことがあっても、好きな気持ちが原動力となれば、乗り越えられると思います。みなさんの挑戦を私も応援しています。
- ※ 最適な治療法や製剤輸注量・輸注回数は、患者さんごとに異なります。ご自身の治療については、主治医と十分にご相談ください。
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