患者さん・ご家族へ
小さな血友病の子どもさんを持つご家族へ
5.家庭輸注について
親御さんにとって最愛のお子さんに血友病という聞きなれない病名を告げられ、しかもその病気は生涯続くと説明されれば誰でもわが子をこの先どのように育てていけばよいのか戸惑い、落ち込み、将来への不安を募らせていくと思います。その上、わが国の血友病患者は約4,700人と他の慢性疾患に比べるとはるかに患者数は少なく、この病気について専門的な知識を持つ医療者や専門に診てくれる医療施設も多くはありません。生涯にわたって病気とつきあっていかなければならないとなると非観的になりがちですが、血友病の場合、欠けている凝固因子(血友病Aの場合は第VIII因子、血友病Bの場合は第IX因子、インヒビターがある場合はバイパス療法とインヒビターを消すための治療)を外から補う治療方法、いわゆる補充療法がめざましく進歩しています。しかも、1983年からはこの補充療法が自宅で行える在宅自己注射療法が認可され、出血した時にわざわざ病院まで行かなくても、自宅で保護者がお子さんに輸注できるようになりました。最近の欧米やヨーロッパ諸国においては、この補充療法を出血時にだけ行うのでなく、数回の出血の機会を期に定期的に行う定期的補充療法が注目され、患者さんの年齢のかなり早い時期に家庭輸注を導入するようになっています、このことによって、「命を脅かすような出血からの回避」、「繰り返す関節内出血による血友病性関節症の予防、あるいは進行の防止」という血友病治療の大きな目的により近づいてきているのです。
家庭で輸注を行うことはとても難しそうで、自分にはとうてい無理であると消極的になっておられませんか? 輸注は静脈注射なので簡単にできるものではありませんが、表5に示すような内容について主治医に検討してもらい、条件が整えば病院でナースや医師の指導のもと、血友病についての知識を得るための学習と注射技術を身につけるための練習を繰り返し行います。練習や勉強は少しずつできるところから始めると案外楽にできるのではと思います。「家庭輸注の導入」というと「注射ができるようになる」といった技術的なことが先行しがちですが、注射ができることと同じように血友病についての知識をしっかり身につけることも重要です。病院へ通って輸注してもらっている間は、「知識を得るための勉強をしっかりする」とか、「製剤の溶解や準備をする」など少しずつ取り組んでいくのもひとつの方法ですね。最近では血友病についてわかりやすく書かれた小冊子やコンパクトディスクが製薬会社から提供されていますので、そのような資料を活用されることをお勧めします。主治医やナースに尋ねてみましょう。かかりつけの病院にない場合は取り寄せてもらうことも可能だと思います。

家庭輸注が許可されても、はじめのうちはうまくできないこともあります。なにがなんでも自分が輸注しなくてはと思い込まず、失敗が続く場合には病院に連絡して輸注してもらったり、負担を感じるようなら自信が回復するまでお休みして、その間は病院でお世話になることがあってもかまいません。注射の技術を習得して不自由なくできるようになるまではそれぞれ個人差があるのは当然ですし、注射をする側(親)の条件に、注射される側(子)の条件も重なってきますからなかなか理想どおりにはいかないこともあります。特にお子さんが小さい時期には小さなトラブルは付きものと考え、自分を追い込んだりせず、焦らずがんばりましょう。大切なことは、血友病であるお子さんをできるだけ健やかに育てるために親が子どもの病気を受け入れ、必要な知識を得て、なにが自分にできるかを考えたり行動したりする姿勢なのですから。
血友病の遺伝子治療の実現は、そう遠くないところまで来ています。それまでにできるだけ障害を残さないようにケアすることは、小さな血友病のお子さんの治療の1つのテーマでもあります。
家庭輸注ができるようになると出血による痛みや繰り返し起こる出血からくる二次的障害から、これまで以上にお子さんを守ってあげることが可能になります(表6)。家庭輸注療法を決められた正しい方法で行うことは、小さな血友病のお子さんのためには、とても効果的な治療法です。
表5 家庭輸注導入の条件
- ひと月に数回以上出血(とくに関節内出血)がある。
- ご家族(患者さん本人)が家庭輸注を望んでいる。
- 対象のお子さんが一定の年齢(たいてい4歳以上)に達している。
- 血管が出ていて静脈に針を刺し注射することが難しくない。
- 製剤に対するアレルギーがない。
- ご家族と医師との間に信頼関係ができていて医師の指示を守ることができる。
表6 家庭輸注の利点
- 出血に気づいた時、早期に輸注し、出血のダメージを最小限に抑えることができるようになり、また、回復も早くなる。時間を気にすることなく、輸注ができる(夜間や早朝、病院の外来時間終了後)。
- 旅行や幼稚園等の行事の前に予防的に輸注することで、出血を防いで楽しく過ごすことができ、行事などにも積極的に参加できる。また、注射は持ち運びも可能なので、長期の旅行も可能になる。
- 家庭輸注ができるため、ご家族に心理的なゆとりができ、子どもさんの行動に過度に神経質にならず、子どもさんの行動範囲もひろがり、心理的に好影響を与える。
- 出血を防いで、運動に積極的に参加することで骨の発育を促し、関節を守る筋肉を鍛え、出血しにくい体力づくりをめざすことができる。
- 通院に要する時間やコストが軽減できる。