患者さん・ご家族へ
小さな血友病の子どもさんを持つご家族へ
3.乳幼児期の出血に対する応急手当て
(1)よく見られる出血
1. すりきず・切りきず
すりきずや切りきずは消毒後ガーゼや清潔な布をあて圧迫止血(図9)しましょう。しっかりと圧迫止血をしても出血が続くようなら病院に連絡をします。
図9 圧迫止血

清潔な布やガーゼを傷口にあて、指か手のひらで、
出血が止まるまで強く押えておく
2. 鼻出血
左右の鼻腔(鼻の穴)は鼻中核という軟骨と骨からなる壁によって分けられています。前の方の軟らかい部分が軟骨でできていて、この場所は特に粘膜が薄く傷つきやすく血管も多いところです。鼻出血のほとんどはこの部分からの出血です。鼻出血に対してはまず圧迫止血することが肝心です。鼻中核を最低10分間圧迫止血(図10)することによってたいていの鼻出血は止まります。2本の指で鼻を根元までしっかりつまみ鼻中核を圧迫します。ただし、この方法は何回も繰り返し出血して鼻粘膜が痛んでいる場合は効果が薄れます。その時はワセリンやトロンビン細粒(病院で処方してもらう)をつけた小さな綿球を小鼻が膨らむまで充分に詰め、数時間たってから綿球を取り除きます。それでも、出血がある場合(喉の奥に血液が流れたり、再び出血した場合など)は病院に連絡します。基本的に鼻出血は製剤の注射は行いませんが、出血がひどい場合は注射をしたり、耳鼻科の処置が必要になることがあります。
鼻から喉に流れた血液は飲み込むと吐き気を催すことがありますので、なるべく飲み込ませず、外に吐き出させて下さい。血液を飲み込ませないためには、図10のような姿勢(座位またはうつ伏せ)をとるとよいでしょう。
口の中は線溶活性が強いことはすでに述べましたが、鼻の中も線溶活性が強いのでこれを抑えるトランサミンという薬が有効です。受診された際には主治医に数日分もらっておくと不意の出血時に役立ちます。ただし、水薬は有効期限3ヵ月を目安にして冷所保存とします。
図10 鼻の圧迫止血

鼻を根元までしっかりつまむようにして10分間強く押える
3. 口の中の出血
口の中に出血が起こった場合には歯ぐきなど圧迫できるところは、乾いたガーゼをかませるなどの圧迫止血を図ります。鼻出血の時と同じように、トランサミンは口の中の出血を止める効果があります。図11に示した部分からの出血はなかなか止まりにくく、病院での処置が必要な場合があります。おかしいと感じたら、ためらわずに主治医に連絡をしましょう。
口の中の出血を恐れて、歯磨きやブラッシングをおろそかにすると虫歯や歯周病になり、そのことがかえって出血の原因になりますので、日頃から子どもの年齢にあった歯ブラシでこまめにブラッシングをして、虫歯をつくらないように心がけて下さい。
歯医者さんに通う場合は、あらかじめ、血友病であることを伝えておきましょう。出血を伴う処置がある場合には前後に第VIII(IX)因子製剤を注射する必要があります。
図11 口の中の出血(止血しにくい部位)

4. 皮下出血
皮下出血は時間が経てば自然に吸収されるので基本的には製剤の注射は必要ありませんが、出血した部位が目や首の周りである場合、眼球を圧迫したり、呼吸を妨げることになるので注射をすることがあります。また、その他の部位でも痛がったり、動かすのに支障がある場合、不自然な体位や歩きかたをする場合も製剤を注射することがあります。ぶつけたり打ったりした直後にはその部分を冷やすことは効果的ですが、何日も経っている部位は冷やすよりむしろ温めるほうが吸収を早めます。
乳幼児の場合、採血や注射の後の圧迫が不充分で皮下出血を起こすことがありますので、注射の後は圧迫止血を充分に行いましょう(その時、もんだりしないように)。
5. 関節内出血
腫れている、痛がる(使いたがらない)、関節の部分が熱い時には、関節内出血を起こしている可能性が考えられます。幼児の場合、出血の頻度からいうと足首の出血が最も多く、次に膝、肘の順に出血が見られます。関節内出血は製剤を注射して出血を止める必要がありますので、家庭輸注をするか、家庭輸注をされていない場合は病院へ連絡しましょう。冷シップや氷嚢、アイスノンなどで冷やすことは血管を収縮させて出血や炎症を抑えるので効果的です。その場合、凍傷にならないよう注意しましょう。冷凍庫から出してすぐのアイスノンや保冷剤は特に注意して、皮膚と保冷剤などの間に薄手のタオルやガーゼを置いて冷やし、時々、局所を観察します。そして、局所の安静を図ります。
6. 筋肉内出血
筋肉内出血に対する応急処置は、関節内出血の場合と同様に、すみやかな輸注が必要となりますし、出血している部分を冷やすことと、出血している間は安静にします。