節目のケアシリーズ
《こんな時、どうしたらいい?》学童期編
子どもへの遺伝の説明
小学4年生の血友病の子どもの母親です。幼児期から家庭輸注をしていて治療面では問題ありません。病気について時々断片的に尋ねるようになりましたが、遺伝のことで私が気後れしてうまく説明できません。どんなふうに対応したらよいでしょうか。
血友病のことを患者さん本人に説明する場合、どこまで話すのが良いのかということについて、あるナースの研修会で話題になったことがありました。そこでは遺伝のことなども含めて話すのが良いという意見や、本人に必要なことだけを説明するのが良いという考え方などいろいろな意見が出て、患者さんやご家族の背景によって方法は様々であること、実際に同じような問題を抱えたご家族がおられることをうかがい知ることになりました。私見ですが、病気のことを説明する時に「誰のために、何のために話すかということ」を基本におけば話す側の考えや対応を整理しやすくなるのではないかと思います。
このご相談の場合、直接的には患者さんご本人のために、彼の知りたがっていることについてひとつひとつ話すということになりますが、大きなとらえ方をするとその作業をすることはお母さんがこれまで抱えてきた荷を少し軽くすることにつながるかもしれません。また、反面、話したことで新たに抱える課題に直面することになるかもしれません。私たちが学童の患者さんに自己注射の指導をする時、知識面で教育する中で遺伝については要望があれば説明しますが、それ以外は説明しないことがほとんどです。多くの場合、その子にとって必要な情報や知識、興味のあることを中心に話します。本人は血友病と生涯付き合っていくことになりますから、「必ず知っておかなければならないこと([1])」、「ライフステージに合わせて知るべきこと([2])」に分けて教育はなされるべきだと思います。例えば、「血友病とは凝固因子が欠乏することにより起こる血が止まりにくい病気であること」や「どんな時にどこに出血する可能性がある」といった内容(図参照)は[1]であり、遺伝の話は[2]と考えてよいでしょう。
そして、遺伝について話す場合
「遺伝」については、我々第3者のとらえ方と当事者のとらえ方には大きな差があり、またお母さんには理屈では説明がつかない重さがあります。それを客観的に説明するのは大変難しいことではないかと思います。ご自身がつらい作業と思われるのであれば、それはやめましょう。お子さんが「断片的に尋ねていること」が遺伝についてであり、どうしても話すことが苦痛であれば、主治医から本人に病気の説明をしてもらうと良いでしょう。この年齢で尋ねる「遺伝」とは、お母さんが持っておられる重さとは違う意味のもっとシンプルなものかもしれませんし、説明してもらって理解できると意外とあっさり納得するのではないでしょうか。
遺伝に限らず、お子さんに病気の説明をする場合、親御さんが全てを抱え込まず、医師、ナース、カウンセラーと一緒に対応してゆくとその子のために大切なことが幅広く豊かに伝わってゆくのではないかと考えます。なによりも、本人が自由に病気のことについて尋ねてくる今の家庭の環境を良いことと評価してください。