節目のケアシリーズ

《こんな時、どうしたらいい?》幼稚園・学校編

インヒビター保有患者さんの止血管理

Q

息子は今5歳で、来年小学校入学です。インヒビター*があるため、止血に時間がかかります。小学校に通っているお子さんはどうしているのでしょうか?

* インヒビター:凝固因子に対する抗体

A

1. インヒビターの治療

インヒビターの治療には、大量の第VIII(IX)因子を長期間注射してインヒビターを消してしまう治療法(免疫寛容療法)があり、現在日本を含めて世界中の専門家が集まり、どのような方法が効果的か共同研究していますが、結果が出るのにはまだ時間がかかりそうです。また、インヒビターを持つすべての患者さんに免疫寛容療法が効くわけではありません。そこで高力価のインヒビターを持つ患者さんの日頃の止血管理には、バイパス療法といって、第VIII(IX)因子を必要としない経路(バイパス)で止血を促す方法がとられます。プロプレックスやオートプレックス、ファイバがこれまでこの目的で使われてきましたが、1回の輸注量が多いことや副作用の問題が難点でした。一方、2000年の5月に遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(ノボセブン)がインヒビターの患者さんの止血治療のために加わりました。第VII因子は出血が起こると活性型となり第IXと第VIII因子の助けを借りて第X因子に止血作業を進めるように働きかけるのですが、大量に活性型の第VII因子があると第IX因子や第VIII因子がなくても直接第X因子に働きかけることができるので活性型第VII因子が有効なのです。

 

2. ノボセブンは家庭輸注に適しています

ノボセブンは従来バイパス療法に使われてきた製剤に比べて1回の輸注量が10ml以内とかなり少なくなりました。ただ、効き目を維持できる時間が2~3時間と、インヒビターがない血友病患者さんに第VIII(IX)因子製剤を注射した時に比べて非常に短く、従って、予防投与には向きません。出血時に使用した時にも輸注してから2~3時間の間に止血効果を判定して、充分に効いていないようなら2~3時間おきに1~2回追加投与する必要があります。もし、3回注射してもおさまらないようなら主治医に相談してください。この点はノボセブンを使用するにあたって特に注意していただきたい大事な部分です。小学生のお子さんが1日に何度も注射をすることを受け入れることは容易ではありませんが、輸注することで出血を最小限度に抑え、早く回復することがわかってくると本人からの訴えも早くなり、2~3回の輸注も次第に受け入れてくれるようになると思います。

 

私たちの血友病センターにも小学生でインヒビターを保有するお子さんがおられます。このお子さんは些細なことでも出血を繰り返し、しかも止血が難しいため頻回の入院や通院を余儀なくされ登校もままならない状態でした。そこで、1回の輸注量も副作用も少ないノボセブンが使えるようになったのを機会に家庭輸注を導入しました。家庭輸注の導入後は通学も可能になり、そのお子さんに無理のない範囲で体育にも参加できるようになりました。

 

さらにこのお子さんは事前のストレッチや、学校から帰った後、出血しやすい関節を氷で冷やしたりという輸注以外にも出血しないようにするための対策を取られています。

 

3. これからのことを主治医と相談して、進めていきましょう

ご相談の方が家庭輸注をまだ始めておられないなら、事情が許す限り、ぜひ家庭輸注を習って、ノボセブンを活用して、小学校入学に備えられることをお勧めします。インヒビターを保有する患者さんは一度出血すると止血治療が難しいので学校行事や体育への参加は他の血友病患者さんより制限されます。実際に遠足などの行事やスポーツにどこまで参加するかについてや家庭輸注の具体的な方法などは主治医と相談しながら進めてください。