節目のケアシリーズ

《こんな時、どうしたらいい?》乳幼児期編

幼い子どもへの病気の説明

Q

3歳半の時に家庭輸注で定期投与を始めました。これまではほとんど問題なく注射を受け入れてくれていましたが、最近、幼稚園で他の子と自分が違うこと(注射のこと)を知り、「なぜ自分だけが注射を?」と疑問を抱くようになりました。まだ、4歳半で説明してもよくわからないためどう教えてよいか悩んでいます。

A

家庭輸注の普及により、最近では幼児期から家庭輸注を始めるケースが増えてきました。早期の家庭輸注導入は、繰り返す関節内(筋肉内)出血や重篤な出血を回避できるようになりますし、出血による疼痛や運動制限からも解放されます。そういう意味では製剤が思うように輸注できなかった時代に比べると、血友病患者さんやご家族のQOL(生活の質)はめざましく改善されました。当血友病センターにかかられている10代後半や成人の患者さん方から、「出血の痛みに比べると注射の痛みははるかに軽いということがわかると子どもの頃でも注射をすることには大きな抵抗はなかった」というお話を聞くことがあります。一昔以上前の血友病の子どもたちは不確かながらも「自分はこれ(注射)をしないといけないのだ」ということを出血の経験で覚えさせられてきたのではないでしょうか。

 

今回ご相談の患者さんのようにご家庭で定期的な補充療法をすると、出血しない状態を維持できるので、出血からくる痛みや運動制限をほとんど経験しないことになります。そこで、これまでの経験でなんとなくわかっているのだけど、「なぜ(痛くないのに)注射をしなくてはいけないのか」、「どうして僕は他の子と違うの」といった疑問や不安、不満などが子どもさんの心に生じてくるのではないでしょうか。子どもさんが幼い時期から定期輸注を導入するケースでは直面する課題になりそうです。

 

1. まずは、ご家族が知識の整理を

子どもさんの疑問や不満、不安を受け止めるためには、まず、ご家族が病気のことを理解し、受け止めておく必要があります。周囲の大人が病気について理解し、受け止められないとその子どもさんが受け止めることは困難です。必要に迫られて家庭輸注の方法は習ったけれど、病気についての知識がいまひとつ不十分だったり、ご家族(特にお母様ご自身)の中に不安や疑問、怒りや自分を責めたりしている気持ちなどがあるかもしれません。不安や疑問が完全に解消されることは無理だとしても、少しずつできるところから荷を降ろし、ご家族が楽に前向きな気持ちで子どもさんにかかわれるように努めて下さい。そのために、まずは患者会のメンバーや主治医、カウンセラー、ナースに気後れすることなく相談したり尋ねたりすることをお勧めします。

 

2.ちょっとしたヒントをご紹介します

大人は注射をすれば出血を未然に防げて痛い思いをしなくてよいこと、重篤な出血や血友病性関節症などの二次的障害を回避できることは書き物を読んだり、人から説明を受けると理解できることなのですが、幼い子どもに病気のことや治療の必要性を話すことはとても難しいです。また、幼い子どもには一度にたくさんのことを理解するのは無理ですし、苦痛を伴う治療や処置を受け入れることはなかなかできないでしょう。血友病は生涯つきあって行かなければならない病気ですので、一時の我慢や喪失、制限でやり過ごせることではありません。子どもさんの発達年齢や状況に合わせてその時々に必要な説明や対応をしてゆくことが大切です。

 

4歳半くらいの幼児期の子どもの心身の発達はめざましいもので、自制心がかなり出来上がり、運動や遊びも上手になります。自分と他の人を意識し自分の周りの人々を観察する能力や真似をする能力も育ってきます。色々なことを想像し、学習能力も向上してくるのがこの時期の特徴です。ですから、「なぜ自分だけ注射?」という疑問が言葉になって出てくるのはむしろ正常な発達で当たり前の反応と受け止めましょう。この時期の子どもは言葉の能力も発達してきますので、年齢に応じた十分な説明を受けることで自分に起こることを予測したり、思いを表出するなどのチャンスができます。本人が注射のことや病気のことをどんなふうに思っているのかを話す機会を持ってみても良いでしょう。思うように言葉が出ない場合もあるのでせかさずゆったりと構えて待つようにします。答えにくいことでも子どもからの質問には避けずに真剣に向き合うことが大切です。

 

これまで過ごしてきたことや体験などを補充療法のことを交えながら話してあげるのも一つの方法です。同じことを尋ねてきても面倒くさがらず、わかりやすい言葉で繰り返し説明してあげるようにして下さい。子どもの不安や疑問は否定せず、受け止め、共感してあげることが大切です。

 

また、子どもは自己愛や自己中心的に考える傾向が強く、特に幼児期は病気になったのは自分のせいだとか、注射をされるのは悪いことをしたからというふうに考えることがありますので、説明をする時にはお子さんのせいではないことを伝えるような接し方が大切です。自己中心的とはいっても、行動を自制したり、内的な制止や制限に従う行動も現れ始める時期でもありますので、親の求めに従ったり、親と協力して何かをしようという行動もできつつあります。これから協力して血友病と上手につきあってゆくといったことを、お子さんの身近な話題に置き換えて話してあげることも理解や受け入れを促すのに役立つと思います。

2.ちょっとしたヒントをご紹介します