血友病のそこが知りたい 忍び寄る生活習慣病:糖尿病について知る
国立病院機構 大阪医療センター 糖尿病内科 光井 絵理
最近は、治療の進歩により、血友病の患者さんも長寿が期待できるようになってきました。しかしながら、このことは加齢とともに生活習慣病合併のリスクをも伴うことを意味します。出血リスクや関節障害などの理由から、必ずしも思うように運動ができない中高年の血友病患者さんは非血友病患者さんよりも生活習慣病合併のリスクが高いことも懸念され、注意が必要です。そこで今回は生活習慣病の中の「糖尿病(2型糖尿病といいます)」に焦点をあててお話ししていきます。
1. 糖尿病について
糖尿病とは
インスリンの作用不足により慢性的に血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が上昇する病気です。インスリンの作用不足は、膵臓からのインスリン分泌の低下によって、または筋肉や脂肪・肝臓においてインスリンの効きが悪くなること(インスリン感受性の低下)によって、あるいはこの両者が組み合わさることによって生じます。
糖尿病は、遺伝的要因(家系)と環境要因(生活習慣など)の両者が加わって発症する病気で、一つの原因によって生じるものではないと考えられています。
著しい高血糖の際には、のどの渇き・多飲・多尿・体重減少といった症状がみられますが、軽度の高血糖だけではあまり自覚症状を感じることはありません。糖尿病の怖いところは、こうした自覚症状がない間にも慢性の合併症が進行してしまうことです。
高血糖が続くと慢性合併症を引き起こす
代表的な糖尿病の慢性合併症としては細小血管症(神経障害、網膜症、腎症)と、大血管症(動脈硬化性疾患)が挙げられます。
細小血管症(神経障害、網膜症、腎症)
細小血管症は、血糖コントロールの程度と高血糖が続いた期間に応じて出現します。高血糖が続いた場合には、糖尿病に罹患してから、神経障害は5年目頃、網膜症は5~7年目頃、腎症は10~15年目頃以降に現れてきます。ですが、主に血糖コントロールを適切に行えば、このような合併症の出現や進行を抑えることができます。
大血管症(動脈硬化性疾患)
糖尿病患者さんでは高血糖が長く続くと動脈硬化が進行しやすいことも明らかになっており、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症といった大血管症を起こしやすくなります。糖尿病と診断される以前の予備群*でも、食後高血糖と関係して動脈硬化を起こしやすいことが知られており、予備群の段階から治療を開始すべきという意見もあります。また糖尿病によく合併する高血圧や脂質異常症(高脂血症)といった動脈硬化の他の危険因子の治療も重要であることがわかっています。
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- 糖尿病予備群:糖尿病を発症するリスクが高い人
糖尿病の検査
糖尿病の診断は、検査値や症状なども含めて総合的に判断されますが、まずは下記の検査値の両方が基準値以上の場合、「糖尿病型」と判定されます。
血糖値
空腹時126mg/dl以上、または随時(食事に関係なく)200mg/dl以上
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)
6.5%以上(正常の基準値は4.6~6.2%)。過去1、2ヶ月間の平均血糖値を反映し、血糖コントロール状態の指標となります。
2. 糖尿病の治療
糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法です。しかし、不十分な場合には併せて薬物療法(インスリン注射を含む)が必要となります。
食事療法
食事療法の基本は、適正なエネルギー制限、炭水化物・脂質・タンパク質などを適切な配分で摂ること、食事の時間を規則的にすることです。糖尿病の患者さんによくみられる問題としては、外食などによる脂肪、菓子・果物など甘いものの摂りすぎ、そしてアルコールの過剰摂取があります。
運動療法
運動は、インスリンの効きの悪さを改善し、血糖値を改善します。食事だけではなかなか減りにくい内臓脂肪を減らす効果があります。1回20分以上、週3回以上くらいの有酸素運動を中心に行います。しかし、血友病患者さんは出血リスクや関節障害のため、十分な運動療法ができない可能性があります。運動を行う前に、主治医とよく相談しましょう。
薬物療法
内服薬(7種類)以外に注射薬(インスリン、GLP-1受容体作動薬)の自己注射が必要な場合もあります。また、自己注射をされている方は血糖値の確認のため、血糖自己測定も行われます。なお、自己注射や血糖自己測定は皮下注射で行われますので、基本的に圧迫止血で凝固因子の補充療法の必要はありません。
3. 予防の重要性
血友病という基礎疾患を持っていると糖尿病やその合併症の治療がより大変なこともあります。糖尿病を予防するために、日頃の生活習慣を見直し、定期的に健診を受けることを心がけましょう。