
血友病の止血治療は、不足している第VIII(IX)因子を血液の中に注射する治療(補充療法)と、その他の治療に分かれますが、ここでは、止血治療の基本である補充療法についてご説明します。
表1、表2)。各凝固因子製剤の特徴の説明は、ここでは省略しますが、治療薬の選択については主治医とよくご相談ください。
その上、1983年わが国でも家庭での血液凝固因子製剤の注射療法に保険が適用されるようになり、製剤を上手に使うことによって血友病の患者さんが普通のお子さんと同じように生活できるようになりました。補充療法のやり方は大きく3つに分けることができます。
表1.わが国の血友病治療製剤の歴史
| 1967年 | Cohn分画製剤 |
| 1972年 | クリオプレシピテート製剤 第IX因子複合濃縮製剤 |
| 1979年 | 第VIII因子濃縮製剤 |
| 1983年 | (血友病自己注射の保険適用) |
| 1984年 | 血液凝固因子抗体迂回活性複合体製剤(インヒビター治療製剤) |
| 1985年 | 加熱処理第VIII因子濃縮製剤 |
| 1986年 | 加熱処理第IX因子複合濃縮製剤 |
| 1988年 | 高純度第VIII因子濃縮製剤 |
| 1992年 | 高純度第IX因子濃縮製剤 |
| 1993年 | 遺伝子組換え高純度第VIII因子濃縮製剤 |
| 2000年 | 遺伝子組換え高純度活性型第VII因子濃縮製剤(インヒビター治療製剤) |
| 2002年 | アルブミン非添加遺伝子組換え高純度第VIII因子濃縮製剤 |
表2.わが国で使用されている血友病治療製剤の分類(2003年6月現在)
| 種 類 | 原 料 | 成 分 |
| 血友病A治療製剤 | ヒト血漿 | 第VIII因子製剤 第VIII因子・フォンヴィレブランド因子製剤 |
| 遺伝子組換え | 第VIII因子製剤 | |
| 血友病B治療製剤 | ヒト血漿 | 第IX因子製剤 第IX因子複合体*製剤 |
| インヒビター治療製剤 | ヒト血漿 | 第IX因子複合体*製剤 活性型第IX因子複合体*製剤 |
| 遺伝子組換え | 活性型第VII因子製剤 |
*第IX因子複合体製剤には、主に第II・第VII・第IX・第X因子が含まれている。
曜日を決めて、血友病Aの患者さんでは週3回(例えば月・水・金)あるいは1日おき、血友病Bの患者さんでは週2回(例えば月・木)、定期的に注射することによって血液中の第VIII(IX)因子活性を1%以上に維持して、関節内出血を予防しようとする治療法です。表3に示したようにオランダやスウェーデンなどで積極的に行われている治療法で確かに関節障害の予防に大きな効果をあげています。5年間以上定期的補充療法を続けている重症血友病患者さん(5~16歳)に面接して、どのようなスポーツに参加しているか調査した結果が最近、英国から発表されました1)。それによると、体育の授業や水泳はもちろんサッカー、クリケット、テニス、バスケットボール、さらには、本格的な試合に出なければ、ラグビーにも参加できているとのことです。
問題はいつから始めるかですが、前述した北欧諸国では1~2歳から始めています。私たちの経験でも足首の関節症を予防するためには2歳頃から定期的補充療法を始める必要を感じていますが、小さなお子さんは注射が難しいのに加えて、出血していないのに注射で痛い思いをする心の問題などを考えると、すべての重症血友病患者さんに対して4歳以前に定期的補充療法を始めることを躊躇してしまいます。これを解決するひとつの方法として、一部の医療機関では皮下に人工血管(図7)を埋め込む試みも行われていますが、感染予防が難しく長持ちしないのが実情です。
表3.代表的な定期投与のプログラム
| イギリス |
| 定期投与は、小児が頻回に出血を起こすようになってから開始する。投与方法は25単位/kgを血友病Aでは週3回、血友病Bでは週2回で始め、出血症状に応じて増減する。 |
| スウェーデン |
| 重症血友病患者は早くから定期投与を始めるのが原則。投与量は25~40単位/kg。投与回数は血友病Aでは週3回、血友病Bでは週2回。中等症~軽症血友病患者は出血時投与でよい。 |
| オランダ |
| ひとつの関節に1~2回出血が起こったら、定期的に輸注して因子活性を2%以上に維持するようにする。このために血友病Aでは20~40単位/kgを週3回、血友病Bでは40~80単位/kgを週2回輸注する。現在では1~2歳の間に大部分の重症血友病患者が定期投与を始めている。 |
| Dr. Joan M Tusellの方式 |
| 2歳で週1回の予防投与を開始し、5歳くらいまではこれを継続する。もしこの間に出血が繰り返し認められるようなら、定期投与の回数を徐々に増やして、血友病Aでは週3回、血友病Bでは週2回まで増やす。 |
図7.皮下埋込式人工血管
定期的補充療法と同じように出血の予防を目的にした補充療法ですが、定期的に注射をするのではなく、遠足、運動会あるいは体育の授業のある日など運動量が多く、出血する危険性が高い日に限ってその日の朝に注射をする方法です。第VIII(IX)因子製剤は1回注射すると、その止血効果は半日(1日)間は充分に期待できますので、注射をした日は普通のお子さんと同じ止血状態で行事やスポーツに参加できるわけです。この方法は年齢にかかわらず、是非とも実践してほしい治療法です。朝の注射が難しい時には前夜の注射も止むを得ませんが、止血効果が最も高いのは注射直後でそれから段々と止血効果が落ちていきますので、なるべくその日の朝に注射をするようにしましょう。
出血した時にする補充療法です。定期的あるいは予防的に注射していても出血した時には改めて補充療法が必要になります。補充すべき第VIII(IX)因子の量(注射量)は出血した部位や出血のひどさにより異なりますので主治医に相談して下さい。表4は大まかな目安を示したものです。
出血時の補充療法で大切なことは、関節内出血では特に早めの注射を心がけてほしいということです。補充療法の遅れは関節障害の進行につながります。もうひとつは、頭の中の出血、内臓出血、腸腰筋の出血(太ももの付け根が痛くなります)など、命を脅かす出血や重大な障害を残す出血の初期症状を見逃さないようにして早めに対処することです。
これについては日常生活におけるアドバイスの中で詳しくご説明します。
表4.血友病の各種出血症状に対する補充療法の基本指針
(田中ら、19982)より一部改変)
| 出血症状 | 目標とする 初回第VIII(IX) 因子レベル* |
1日 投与回数 |
投与期間 |
| 皮下出血、鼻出血、歯肉出血 軽度 重度 |
10~20% 20~40% |
1 1~2 |
1~2日 1~3日 |
| 関節内出血、筋肉内出血 軽度 重度 |
20~40% 40~60% |
1 1~2 |
1~3日 3~5日 以後漸減し、計5~7日 |
| 血 尿 | 40~60% | 1 | 1~3日 |
| 消化管出血、頸部出血 | 60~100% | 1~2 | 3~5日 以後漸減し、計7~14日 |
| 頭蓋内出血、腹腔内出血 | 80~100% | 2 | 5~7日 以後漸減し、計7~14日 |
| 抜 歯 | 60~100% | 1~2 | 3~5日 以後漸減し、計5~7日 |
| 小手術 | 60~100% | 1~2 | 3~5日 以後漸減し、計5~7日 |
| 大手術 | 80~100% | 2 | 7~10日 以後漸減し、計10~14日 |
*第VIII因子を体重1kgあたり1単位注射すると直後の第VIII因子レベルは2%上昇する
第IX因子を体重1kgあたり1単位注射すると直後の第IX因子レベルは1~1.5%上昇する
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スポーツが原因で起こる出血に対しては、補充療法を行うとともに、「R・I・C・E」―安静・冷却(冷シップ)・圧迫・そして、挙上(心臓より高い位置に保つ)―により止血を図ります。
また、目に見える出血、例えばすりきず、切りきず、鼻血、口の中の出血には圧迫止血が有効です。この時に脱脂綿に止血剤をしみこませたり、まぶして使用するとさらに止血効果が強くなりますが、これについても後でご説明しましょう。
引用文献
1)Beeton, K et al.:Haemophilia, 6:401-406, 2000
2)田中一郎ほか:小児科臨床, 51(4):763-768, 1998