2010年7月号Volume29Number2 目次へ
第6回:低い輸注アドヒアランス

- 自己注射になって子ども自身に注射のことを任せていると、なかなか主治医の処方どおり注射ができず注射の回数を守っていません。親が注意しても言うことを聞かず、どのようにすればきちんと注射をするようになるでしょうか?
- A
- 患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って薬を服用したり注射したりすることを専門用語で「アドヒアランス」といいます。つまり、ご相談のお子さんの場合、アドヒアランスが低い状況と考えられます。家庭注射の実施者が保護者からお子さん(患者本人)へ移行したあとに、輸注のアドヒアランスが低下して困っているというようなご相談を時折耳にします。
実際、小野らの調査報告1)にも10歳代にアドヒアランスの低下があることが示されています(図参照)。なぜこのようなことが起きるかについては様々な原因が考えられますが、その対策とともにいくつか具体的にご紹介しましょう。
原因その1:患者本人の血友病に対する認識が低く、定期補充療法の重要性を理解していない
定期補充療法の意義は、非出血時に定期的に凝固因子を補充することにより関節障害を防止・軽減し、重大な出血を回避することです。保護者はその意義を理解して開始しても、患者さん本人が血友病に対する認識が低く、十分理解できていないことがあります。そのため、家庭療法の主体が保護者からお子さんに移行するとアドヒアランスが低下するのです。このような場合は、改めて主治医、看護師に血友病や定期補充療法の意義について十分説明してもらいましょう。また、製薬会社などが作成した定期補充療法についての小冊子もありますので、医療機関にお尋ね下さい。その他、患者会あるいは主治医や看護師を通じて、先輩患者さんから定期補充療法の重要性についてアドバイスしてもらえるよう頼んでみてはいかがでしょうか。定期補充療法に対して説得力のある、よい動機付けになると思います。
保護者から患者本人への移行時期の再教育、さらにその後の継続的な患者への教育が定期補充療法のアドヒアランスを低下させないようにするために極めて大切と考えています。
原因その2:患者本人の怠慢
定期補充療法の意義をよく理解している、あるいはそのつもりであるが、朝起床が遅くなった場合など、ついついサボってしまい、定期補充療法の回数が少なくなる場合があります。定期補充療法の効果を最大に発揮させるためには活動の前、すなわち朝に行うのが最も適切ですが、このように朝に注射ができなかった場合は、例えば学校から帰宅後や夜でもよいので続けることが大切です。最適な条件で注射ができない場合でも、本人ができる範囲で方法を工夫して続けるように心掛けることでアドヒアランスの低下を防げると思います。
原因その3:注射の失敗が多い
以前は保護者により注射が順調に行われていたが、本人に移行した後から注射の失敗が重なり、次第にアドヒアランスが低下する場合があります。このような場合には一定期間は保護者が代わって行う、あるいは、本人が一度失敗した場合には二度目は保護者が行うなどの工夫をしましょう。スランプが短期間であれば、再び本人による注射が可能になります。また、スランプが長期化するようであれば、主治医、看護師に相談して再教育を受けましょう。本人が注射を行えるようになった後も、本人に任せきりにしないで、保護者は遠くから見守りながら必要な時には手伝ってあげて下さい。
原因その4:思春期の反抗期の表出
既存の価値観や大人に対して何でも反抗する時期があり、個人差はありますが、多かれ少なかれ誰にも認められることです。男子から男性への変換期、親から精神的に独立する大事な時期です。本人の意思を十分大事にしてあげて下さい。定期補充療法の意義をよく理解しているかどうかで、対応は異なります。理解していない場合は、原因その1に記した対応、すなわち、主治医、看護師に教育をしてもらう必要があります。その後は、本人次第でしょう。定期補充療法の意義をよく理解している場合は、一度中断するしか方法はありません。関節内出血を頻回に発症し始めたら、その時点で再開するかどうかを本人とよく話し合いましょう。
これら以外の原因もあるかと思いますが、なぜアドヒアランスが低くなったかをよく考えて対処をすることが大切です。保護者だけで悩まないで、まずは主治医や看護師に相談してはいかがでしょうか。
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院小児科 教授 瀧正志先生