2010年7月号Volume29Number2 目次へ

血友病患者さんにおけるリハビリテーションの重要性

みなさんは「リハビリテーション(以下、リハビリ)」という言葉からなにを想像されますか?多くの方は理学療法士などが手や足を動かし、歩く練習をする場面を思い描かれるのではないでしょうか。
これらは「訓練」と呼びリハビリの重要な要素ですが、あくまでも一部に過ぎません。リハビリとは、病気や怪我によって引き起こされた生活上の不都合(障害)を、身体的にも精神・心理的にも良い状態にすること(再適応)です。そのためにまず評価を行い、訓練をはじめ、装具や医学的助言・指導、社会制度の調整・活用などを通じ障害に対して包括的に取り組みます。「リハビリをする」ということは「訓練をする」ことのみではなく、障害に対して包括的に取り組むことを意味します。このようにリハビリはとても範囲が広いので、ここでは運動や訓練、装具についてご紹介します。
血友病とリハビリ~まず補充療法、そして運動~
みなさんは運動をされていますか?運動習慣が健康増進に欠かせないこと、気持ちの上でも生活を豊かにすることは十分ご承知のことでしょう。このことは血友病患者さんでも同じです。血友病では同じ関節に出血を繰り返すと血友病性関節症(以下、関節症)と呼ばれる関節障害が生じ、慢性的に痛み、動く範囲(関節可動域)が狭くなり、筋力も低下します。しかし、適切な補充療法とともに定期的な運動や訓練を行うと関節の動きがよくなり、筋力が強化され、関節出血の危険が減るため、日常生活を安心して送れるようになります。ではどのように運動をしていけばよいのでしょうか。

これまで大きな出血もなく定期補充療法を行っている場合
積極的な運動をお薦めします。輸注した日に行うと出血の危険を減らすことができます。急激な運動は、出血はもちろんのこと怪我にもつながりますので、運動前に十分な準備運動を行ってください。種目別の危険性の高さについてまとめられたものがあります1 )が、これは種目の安全性を保証するものではありませんし、また出血の危険が高い種目を禁じるものでもありません。出血の危険が高い種目で も、これまでの出血部位や頻度などにより可能な場合もありますので、まずは興味のある種目について担当医に相談して下さい。



同じ関節に出血を繰り返したりすでに関節症を生じている場合
まず関節の評価を受けて下さい。関節に負担のかかる運動や激しい運動はかえって出血を起こし、関節症の進行を早めかねません。多くは運動の前段階として「リハビリ」を行う必要があります(表)。
評価に基づき訓練を行いますが、関節可動域訓練や筋力強化訓練の方法にはいくつかの種類があり、関節の状態に合わせて選択されます。こうした訓練は比較的低負荷で単純な動作を繰り返す自宅でも 行える内容が多く、定期的通院で指導(方法の確認や負荷の設定)を受け、訓練そのものは自宅で継続すると効果的です。関節症による関節障害では、すこしでも関節可動域や筋力が改善すると、速く歩ける、長距離歩行が疲れにくくなる、椅子からの立ち上がりや階段昇降が楽になる、洗顔・整髪動作がしやすくなるといった変化を実感されるでしょう。
出血が集中している関節には装具を併用します(図)。膝や足関節のサポーターは日常生活を制限することなく出血頻度を低下させるため、出血を繰り返す関節に使用すると、運動に限らず日常生活を安心して送ることができます。より出血が高頻度な場合には樹脂や金属を用いた装具で関節を固定したり浮かせます。
いずれにしても指示された補充療法を尊守することを忘れないで下さい。

インヒビターを保有する場合
インヒビターを保有する患者さんでは、定期補充療法が難しく運動に際してより慎重な対応が必要ですが、装具は出血頻度を下げる手段として有効です。インヒビターを保有し関節の出血頻度が高い患者さんは担当医に相談下さい。
運動と出血
「運動はしたいけど出血するのでは?」と思ったことはありませんか?通常、適切な運動やリハビリで出血することはほとんどありません。定期補充療法が一般的になった現在でも出血を恐れるあまり、「ほとんど外出しない」「運動はしないようにしている」といった過保護になっている患者さんがおられます。しかし、診察すると日常生活に制限が必要な患者さんは少なく、たとえ制限が必要でも小さな工夫で対処できることがほとんどです。そこで、少しずつリハビリを行うと過保護になっていた患者さんでも、思っていたよりも出血せずに動けることに気づかれ、日常生活の範囲を広げることができます。一方で、運動を始めて出血した場合でも、補充療法の見直しや装具によって継続可能なこともありますので、担当医に相談してください。出血を恐れるあまり自らの生活に枷をはめることは、生活の範囲を狭めQOLを下げてしまう残念なことです。
最後に
リハビリの目的は関節を治すことではなく、生活上の不都合を軽減しQOLを高めることにあります。
「血液凝固異常症のQOLに関する研究の平成19年度報告」によると関節の状態が悪いが、関節に関する診察を受けていない人が31.2%もおられました。関節症は日常生活上の制限を引き起こしますが、適切なリハビリにより関節の機能を改善し、こうした制限を解消しQOLを高めることができます。少しでも不自由を感じた時にはぜひリハビリを受けて下さい。

参考:白幡聡, Hello Sports!!. 2007
産業医科大学病院リハビリテーション科 牧野健一郎先生


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