2010年3月号Volume29Number1 目次へ
血友病レポート 血友病性関節症の治療における滑膜切除術について
昨年11月27~29日に千葉県にて開催された「第51回日本小児血液学会」において、十数題の血友病関連の発表が行われました。
今回はその中から千葉県こども病院からの「血友病性関節症に対する内視鏡を用いた滑膜切除術」の報告をご紹介し、合わせて「滑膜切除術の適応と有効活用」について、東京大学医科学研究所附属病院関節外科竹谷英之先生に解説頂きます。
関節内出血を繰り返す若年の血友病患者さんが内視鏡による滑膜切除術を受け、関節症の進行を遅らせることができました
血友病性関節症にならないためには、適切な定期補充療法が有効と言われていますが、何らかの理由で止血管理が不十分になり標的関節(出血を繰り返す関節)ができてしまった場合は、整形外科的な治療が効果的であることがあります。
千葉県こども病院整形外科において、表1に示すような若年の血友病患者さん3人の標的関節に対して、関節鏡視下滑膜切除術(関節の内視鏡を用いた滑膜切除術)が行われました。その結果、2人(Aさん、Bさん)は手術後、定期補充療法の併用にて、関節内出血回数が減少し、うちBさんは骨破壊が進んでいたにもかかわらず骨変化が改善し、関節の可動域も正常化しました。
1人(Cさん)は、手術後も関節内出血の回数はあまり減少しませんでしたが、手術をした右側の足首の関節は隙間が保たれたのに対して、しなかった左側の足首は関節症が進行してしまったことから、手術は関節症の進行を遅らせる効果があったと考えられました。
このように同一関節に出血を繰り返す(例えば、6 ヶ月以内に3 回以上)患者さんには、まずは主治医に相談の上、整形外科を受診し、きちんとした診断を受けることをお勧めします。関節内の滑膜が増殖している場合には、補充療法による止血管理と合わせて関節鏡視下滑膜切除術を行うことで関節症の進行を遅らせたり、くい止めたりすることができる可能性が高いと考えられます。

監修:千葉こども病院 血液腫瘍科 部長 沖本由理先生
同整形外科 西須孝先生
4.最後に:ご家族の精神ストレスへの対処法

血友病の特徴的な症状である関節内出血は、補充療法が奏功しないと滑膜が増殖し慢性滑膜炎になり、その後血友病性関節症(以下、関節症)になってしまいます。
増殖した滑膜を除去する慢性滑膜炎の治療方法として、一般には主に表2 に示すような4 つの方法があります。
滑膜浄化術(以下、浄化術)は比較的簡便で経済的な方法として世界的に早期の慢性滑膜炎に対する第一選択の治療方法とされ、欧州や南米を中心に多くの患者さんが治療を受けていますが、日本では認められた治療方法ではありません。一方日本で行える滑膜切除術(以下、切除術)は、海外では浄化術を数回行っても治療が困難な場合に対する次の治療としての役割を担っています。
いずれにしても切除術は、血友病患者さんの慢性滑膜炎に対する積極的な止血治療として、世界的に認められた有効な整形外科的治療方法です。関節内出血をなくす、あるいは減らすことで、関節症の発生防止や進行を遅らせることを目的としていますが、関節症の
改善効果は期待できません。つまり、その最も良い適応は関節症には至っていないが、補充療法では治療が難しい慢性滑膜炎です。進行した関節症にも行われますが、その場合には止血効果のみが目的となります。
浄化術が承認されていない日本では、切除術とりわけ関節鏡視下滑膜切除術(右図)が、慢性滑膜炎に対する治療の中心です。しかし血友病患者さんの切除術においては、術中・術後の止血に経験と知識が必要であり、現在のところ日本では、切除術が単純に本来の適応基準(早期の慢性滑膜炎)に従って行えるほど経験のある整形外科医は少なく、全国どこの整形外科でも安全に行えるという状況ではないことも事実です。そのためこの方法は、進行期から末期の関節症に対する止血治療や人工関節手術までの時間稼ぎとして用いられていることが多いのが現状です。滑膜切除術をより有効に活用して頂くためには、患者さんと医療者が関節症状に応じて期待される効果、さらにはその危険性を十分に認識した上で行うことが重要です。

東京大学医科学研究所附属病院 関節外科 講師 竹谷英之先生