2009年11月号Volume28Number3 目次へ
血友病治療に関する最新の話題
本年7 月11~16日に米国のボストンにて「第22回国際血栓止血学会」が開催され、世界100カ国から約7,600人の血栓止血専門の医療関係者が集まり、最新の研究発表や討論が行われました。本学会では血友病に関する成績も数多く報告されましたので、今回はその中から「定期補充療法」と「インヒビター」に関する話題をご紹介します。
1.成人患者さんの定期補充療法

小児の血友病患者さんでは定期補充療法の関節保護効果が証明されています
1)が、
青年期から成人の患者さんにおける効果については、まだ十分に証明されている訳ではありません。
そこで、英国、フランス、イタリアの研究者たちは、出血時補充療法を行っている12才以上の重症型血友病A患者さん20人(平均年齢36才、月平均2 回以上の出血がある人)を対象に、出血時補充療法、定期補充療法(20~40単位/体重kg、週3 回輸注)の順に6 ヵ月ごとに治療方法を変更し、出血回数や関節症状の変化を調べました。
その結果、定期補充療法への移行により、関節症状については痛みや可動域などに有意な改善は認められなかったものの、総出血、関節内出血など出血回数はいずれも中央値で0回に減少しました(表1)。20人の中で、16人(80%)が標的関節を有し、1ヵ月に2 回以上の出血を起こしていた患者さんの多くが半年間出血回数が0回に激減したという結果は、成人患者さんにおいて定期補充療法の有効性を裏付ける一つの証明と言えるでしょう。このように関節障害があり出血回数が多い患者さんには、比較的短期間であっても定期補充療法の導入は、出血回数を大幅に減らし、関節症の進行を遅らせる有効な方法と考えられます。(Collinsらの発表より)
2.重症型血友病A患者さんにおけるインヒビター発生要因の検証

欧州とカナダの血友病センターで行われた凝固因子製剤による治療歴のない重症型血友病A患者さんを対象にしたインヒビター発生要因に関する研究から、患者さん側の要因、治療側の要因に分け、いくつかの要因が報告されています(表2)
2)。
そこで今回、インヒビターとの関連が疑われる各要因について広く検証するため、世界42箇所の血友病センター病院、46人の専門医において危険度を5段階で評価するアンケート調査(日本からも3施設が参加)が行われました。調査対象となった42施設においては、合計2,642人の18才以下の重症型血友病A患者さんを診療しています。その結果、インヒビターの発生要因として最もリスクが高いと評価されたのは、「第Ⅷ因子遺伝子の大きな欠失」で、以下、「インヒビターの家族歴」、「幼少期の集中的補充療法(手術や頭蓋内出血時などの大量の製剤使用)」、「人種(黒人では他の人種に比べてインヒビター発生率が高いと言われています)」、「感染症の合併」の順でした(図1)。一方、「補充療法の幼少期の開始」、「遺伝子組換え製剤の使用」については、インヒビターの発生要因と考えている血友病専門医は少ないことがわかりました(図1)。
また、幼少期(ただし、6 ヵ月齢以上)に開始する定期補充療法はインヒビター発生リスクを低減させるとの評価も報告され、高リスクの要因に該当する患者さんでは、以下のような方法がインヒビター発生の低減につながると考えられています。
●定期補充療法を早期に開始する。特に重篤な出血、手術などの集中的な補充療法の後は定期補充療法に変更する。
●幼少期の集中的補充療法やカテーテル設置をなるべく避ける。
●幼少期の出血は関節内出血は少なく、皮下などの軟部組織の出血が多いので、
このような出血症状に対しては、低用量にて、もしくは製剤輸注せずに止血する。

3.免疫寛容療法国際研究の中間報告
インヒビターを消失させる治療法として注目されている免疫寛容療法については、2000年より国際的な研究が行われており、日本からも16人のインヒビターのある患者さんが参加しています。2009年7月現在、17カ国から133人の患者さんが登録しています。すでに治療を終了した61人のうち47人においてインヒビターが消失し、成功率は77%と報告されました。また、免疫寛容療法を開始した110人の開始時年齢の中央値は23ヶ月齢で、開始時インヒビター力価の中央値は5.1ベセスダ単位でした。
本研究は登録患者さんが150人になるまで継続されますが、日本からの患者さんの参加はすでに定員に達しました。研究の最終結果が出るまでにはもう少し時間がかかりますが、成功率を最も高くするための条件などが明らかになるものと大きな期待が寄せられています。(DiMicheleらの発表より)
1)Manco-Johnsonら, NEJM 357(6):535-544, 2007
2)Gouwら, Blood 109(11):4648-4654, 2007
監修:奈良県立医科大学附属病院小児科 教授 嶋 緑倫先生